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協同組合の理解を深めよう

『21世紀の協同組合に関するICAの声明』を読み直す

白石 正彦(東京農業大学・名誉教授)

第1回 プロローグ・「協同組合の定義」について

 国際協同組合同盟(ICA)は1895年に設立され、日本の農協・生協など各協同組合の全国組織も加盟し、2013年12月現在、加盟組織は94か国271団体、傘下の組合員は世界全体で10億人を超えています。注目される点はICA理事会が2014年10月9日に“日本の農協法改正の方向が協同組合原則を侵害するものと考える”と強い懸念を表明している点です。
 ところで、2015年は、ICAが現行の協同組合原則「21世紀の協同組合に関するICA声明」を1995年のICA総会で決定して20年目になります。この節目の年に、ICA声明(協同組合に関する①定義、②価値、③7つの原則で構成)を学び、神奈川県のJAが協同組合らしさの発揮を明確にした自己改革を進められることを期待し、今回は「協同組合の定義」について明らかにします。

「協同組合の定義」
「協同組合とは、共同で所有し民主的に管理する事業体を通じ、共通の経済的・社会的・文化的なニーズと願いを満たすために自発的に手を結んだ人びとの自治的な組織である」

 協同組合とは何かについて、この声明では、上の文章で簡潔にあらわしています。では株式会社との相違点をみてみます。
 第1に、協同組合は「共同で所有し民主的に管理する事業体」を通じて目的を達成するという点で、事業活動を手段として位置づけ、事業活動なしでは存在し得ないことを意味しています。これに対して、株式会社の手段は「資本の所有割合に応じた権限に基づき、所有・管理する企業」であり、根本的に異なります。
 第2に、協同組合は「(組合員の)共通の経済的、社会的、文化的なニーズと願い」を実現することを目的として明確にしています。これは出資者である株主に最大の配当を行う「利潤極大化」という株式会社の目的と異なります。
 第3に、協同組合は人びとの自治的な組織(人と人の結合体)としての本質を明確にしています。この点で資本と資本の結合体としての性格が強い株式会社と異なります。

第2回 「協同組合の価値」と7原則の位置づけについて

 今回は「協同組合の価値」と7原則の位置づけについて明らかにします。まず「協同組合の価値」には、協同組合が大切にすべきことを明示しています。

「協同組合の価値」
「協同組合は、自助、自己責任、民主主義、平等、公正、連帯という価値を基礎とする。協同組合の創設者たちの伝統を受け継ぎ、協同組合の組合員は、正直、公開、社会的責任、他者への配慮という倫理的価値を信条とする。」

 前段には協同組合の基本的価値が盛り込まれています。最初の「自助」は、人はすべて自分の運命を切り開くよう努力する必要があり、最後の「連帯」は、団結した協同組合運動を地域、全国、国際レベルでつくりだす必要があり、“自助と互助(連帯)”の結びつきの大切さを意味しています。「自己責任」は組合員が自分たちの協同組合の持続的活力に対する責任を負うこと、「平等」は協同組合の基礎的単位は組合員(人間)であること、「公正」は参加(事業利用など)に対して組合員が公平に扱われることを意味しています。
 後段には組合員の信条とする倫理的価値が盛り込まれています。最初の「正直」は、特にロッチデール先駆者組合の正直な計量、高品質、公正な価格にこだわった取り組み等を意味し、「公開」は、組合員、一般の人々、政府に対して自分たちの活動に関する情報を定期的に公開する公共性をもった組織であること、「社会的責任」は、協同組合が地域社会に開かれ、一人ひとりの自助を手助けする関わりを意味しています。さらに「他者への配慮」は地域社会に対する貢献や、発展途上国の協同組合の成長のための支援などを意味しています。
 価値に続く7つの原則の位置づけについては、「協同組合原則は、協同組合がその価値を実践するための指針である」と明示しています。7原則のうち前半の3原則(自主的で開かれた組合員制、組合員による民主的な管理、組合員の組合財政への参加)は協同組合の内的活動に適用される必要があり、後半の4原則(自主・自立、教育・研修・広報、協同組合間の協同、地域社会(コミュニティ)への関わり)は協同組合の内的活動と外の世界との関係に適用される必要があります。

第3回 第1原則「自発的で開かれた組合員制」

 一般に、協同組合には人びとの加入・脱退の自由があることは理解されています。しかし、一方的にJA制度改革を政府に迫られている現段階では、JAの現状をよりよく協同組合らしく改善、革新する基本的指針として、以下の第1原則「自発的で開かれた組合員制」を深く理解し、実践現場に生かす必要があります。なお、協同組合原則の邦語訳は複数ありますが、このコンテンツでは日本協同組合学会訳を基本に説明します。

【第1原則】「自発的で開かれた組合員制」
協同組合は、自発的な組織であり、男女による差別、社会的、人種的、政治的、宗教的な差別を行わない。協同組合は、そのサービスを利用することができ、組合員としての責任を受け入れる意志のあるすべての人びとに開かれている。

 第1に、この原則は、人びとは協同組合に加入・脱退を強制されることなく自発的に参加することの重要性を強調しています。このような組合員の自発的な参加は、協同組合が大切にしている価値を学び、理解する機会が提供されるなかで促進されます。
 第2に、協同組合は、男女による差別、社会的、人種的、政治的、宗教的な差別を行ってはならない点を強調しています。このように、協同組合は人類のあらゆる差別を乗り越えて人間尊重を大切にする組合員の関係性(絆)並びに組合員と協同組合の関係性(絆)の強化を目指しています。
 第3に、協同組合の組合員は“そのサービス(協同事業活動)を利用する(利用メリットを共有する)”ために、農協や生協など事業利用目的をふまえて加入するのであり、株式会社の株主のように事業利用は関係なく“利益追求”を目指す点と根本的に異なります。この原則との関連で、今回の農協法改正の問題点を注視する必要があります。
 第4に、“ 組合員としての責任を受け入れる意志のあるすべての人びとに開かれている。”という点は、組合員は協同組合の事業利用に加え、総会や組合員組織など運営面での参画などの責任を果たすことを明示しています。すなわち、百貨店、スーパー(株式会社など)を顧客として利用する点と根本的に異なります。このような組合員の参画(組合員の責務の発揮)は、役員や管理職、職員が組合員から学び交流し、組合員をよく知るなかで活発になります。
 以上のように“組合員により組織され”、“組合員が運営、事業利用する”という“組合員のための協同組合”の制度的特質を保持しつつ、「すべての人びとに開かれている」ところに特徴があります。

第4回 第2原則「組合員による民主的管理」について

 協同組合は、組織基盤である組合員の多様化傾向と市場競争に負けないために合併等で大規模化が顕著ですが、以下の第2原則「組合員による民主的管理」は、組合員主導で単協の管理を強化し、組合員と単協主導で連合組織の管理を強化する指針を明示したものです。

【第2原則】「組合員による民主的管理」
協同組合は、組合員が管理する民主的な組織であり、組合員は、その政策立案と意思決定に積極的に参加する。選出された役員として活動する男女は、すべての組合員に対して責任を負う。単位協同組合の段階では、組合員は平等の議決権(1人1票)をもっている。他の段階の協同組合も、民主的方法によって組織される。

 第1に、この原則は、協同組合は組合員一人ひとりのニーズや願いを大切にし、組合員が民主的に管理するべきで、役員や職員のために管理されてはならないことを明確にしています。JAの場合は、総会(総代会)という最高議決機関のみでなく、顔の見える組合員組織である集落組織、作目別部会組織、青壮年部、女性部、准組合員組織などの多様なグループの意向がJAの政策立案と意思決定のプロセス(支店運営委員会など)で可視化され、反映されていると実感できるための指針です。
 第2に、組合員を代表する役員には男女共に選出されることに大きな意義があり、役員はすべての組合員に対する責任を自覚して取り組む使命・義務があることを明示しています。JAの役員は、JAの情報を可能な限りホームページ等で開示し、高度情報化時代にふさわしい組合員同士並びに組合員とJAさらには市民との多元的コミュニケーションの場づくりを加速し、多様な組合員(正・准組合員を含む)による民主的管理力を高めるリーダーシップを発揮すべきとする指針です。
 第3に、単協の段階では組合員は平等の権利をもっていることを明示したもので、この点が、資本の所有割合に応じた権限で所有・管理されている営利企業と根本的に異なります。JAの場合には、今後一定の割合で准組合員の理事登用を促進し、事業利用(自益権)では共通の権利をもつ正・准組合員に生活面の施設整備などで意思反映プロセスを可視化し、理事会や総代会でその意向が配慮されるよう検討する必要があるでしょう。
 第4に、協同組合の連合組織は、単協の役員代表などによって管理され、組合員のために(少数グループの意向にも配慮し)持続的な組織・事業・経営の革新が図られているかをできるだけ可視化し、営利企業と異なる協同組合としての評価基準で、高度な補完機能の発揮を促進することを明示した指針です。

第5回 第3原則「組合員による民主的管理」について

 一人ひとりの市民や労働者・農業者などは、市場での不公正なあるいは不利な事業取引を克服するために①協同組合に出資して組合員となり、②組合員として運営に参加し、③組合員として事業利用を行っています。しかし、安いからと営利企業であるスーパーマーケットを利用するなど、協同組合の強みである本来の姿(関係性)が薄れる傾向もみられます。このため、出資・参加・利用の3つの絆の結びつきを「組合員の経済的参加」に焦点を当てて明らかにしたのがこの原則です。

【第3原則】「組合員の経済的参加」
組合員は、協同組合に公正に出資し、その資本を民主的に管理する。少なくともその資本の一部は、通常、協同組合の共同の財産とする。組合員は、組合員になる条件として払い込まれた出資金に対して、利子がある場合でも、通常、制限された利率で受け取る。組合員は、剰余金を次のいずれか、またはすべての目的のために配分する。
・準備金を積み立てて、協同組合の発展に資するためーその準備金の少なくとも一部は分割不可能なものとする
・協同組合の利用高に応じて組合員に還元するため
・組合員の承認により他の活動を支援するため

 第1に、協同組合の資本(組合員の共同の財産)には、「組合加入時の出資金」「施設増設のための出資金(増資)」「特別の増資」「事業活動から得た収益からの準備金(内部留保)」がありますが、組合員は公平に(一部の人に偏らず)出資し、組合員が民主的に管理すべきことを強調しています。出資金への配当は制限され、支払われる場合でも利子に当たるものであることを明示しています。
 第2に、剰余金は組合員の効果的・効率的な事業利用の成果です。この配分には3つの方法(分野)があり、そのすべてか、2つあるいは1つに配分するかを決定するのは組合員です。
 1番目の分野は、組合員のニーズに対応した事業利用施設の拡充のための準備金で、「一部は分割不可能なものとする」性格を持っています。
 2番目の分野は、最も伝統的で組合員に事業利用メリットが直接実感できる「利用高に応じて組合員に還元」される方法です。営利企業は、株主の株式所有高に応じて利潤配分するので根本的に異なります。
 3番目の分野は、組合員の承認により、県域、全国域、国際的な協同組合の連合組織などを通じ協同組合運動をいっそう発展させるために配分されます。
 以上のように、第3原則は、協同組合の施設(事業)整備に組合員の意向が反映され、組合員が満足して事業を利用し、事業利用の成果から生じた剰余金が公正に配分される協同組合らしい好循環づくりのために重視することが大切です。

第6回 第4原則「自治と自立」について

 第4原則は、第1に、“協同組合は、組合員が管理する自治的な自助組織である”ことを明確にしています。第2に、政府を含む他の組織との取り決めや外部から資本を調達の場合は、“組合員による民主的管理を保証し、協同組合の自治を保持する条件のもとで行なう”ことにより、協同組合が従属関係に陥ることなく協同組合らしさが発揮できる点を明確にしています。このように、第4原則は協同組合の内部関係における“組合員の自治”と協同組合と外部との関係における“自立”の双方を結びつけて堅持すべき協同組合運動の体質的強化を強調しています。

【第4原則】「自治と自立」
協同組合は、組合員が管理する自治的な自助組織である。協同組合は、政府を含む他の組織と取り決めを行う場合、または外部から資本を調達する場合には、組合員による民主的管理を保証し、協同組合の自治を保持する条件のもとで行なう。

 1980年のICA大会で採択されたレイドロー報告は、この原則に関し「政府が協同組合を干渉すると、協同組合は空気に触れた水銀のように萎縮する」「外部の高い圧力に対してカメレオンのように表面的に変色しても本質は変えてはならない」と警鐘を鳴らしていますが、四半世紀後の日本でこの懸念が現実のものとなりました。
 全中の廃止や農協の監査制度改変、理事会の枠組み改変などを盛り込んだ政府の農協法改正法案は、准組合員規制を当面棚上げする条件で、全中に無理やりに合意させたプロセスを含め、明らかにこの第4原則を逸脱しています。このため、JAグループの組合員・役職員は、組合員組織、支店・運営委員会、理事会、総代会および職場等で危機意識を持ち、細心の注意を払って組織・事業・経営が内包する強みと弱みを総括し、自治的な自助組織らしい内発的な再生・革新運動の共通認識を深める必要があります。
 協同組合の第4原則の「自治と自立」の堅持は、①多様な家族農業経営者等(正組合員)と農・暮らしの多面的価値に共感し結集している非農業者(准組合員)との絆の強化、②持続可能で人間尊重の豊かな農業・農村づくり、➂食料の地産地消と安定供給の相乗的な創造を効果的に可能としており、しかも国連・国際労働機関(ILO)もこの第4原則が人類を幸せにする国際的原則として高く評価し共有しています。
 しかし、日本政府は「地方創生」を掲げる一方でこの原則に冷淡で、人びとを分断し営利企業の農業参入には熱心です。このような矛盾点を、国内外の協同組合関係者のみでなく市民、自治体、中小企業の皆さん等に対して明らかにして、協同組合による活力ある地域の実例を誇りをもってアピールすべきです。

第7回 第5原則「教育、研修および広報」について

 第27回ICA大会(1980年)で採択された『西暦2000年における協同組合―レイドロー報告―』は、「協同組合が事業組織であると同時に教育組織でなければ、社会における協同組合の潜在的役割はその大部分が失われることになる。」と指摘しており、第5原則では、この協同組合が事業組織であると同時に教育組織である複合的な特性を、実践において効果的に開花させる指針として、「教育、研修および広報」を明示しています。

【第5原則】「教育、研修および広報」
協同組合は、組合員、選出された役員、マネジャー、職員がその発展に効果的に貢献できるように、教育と研修を実施する。協同組合は、一般の人びと、特に若い人びとやオピニオンリーダーに、協同することの本質と利点を知らせる。

 このうち、最初の“教育”は、組合員、役員、幹部職員はじめすべての職員が、協同組合の大切にしている価値・原則とその活動の複雑さ・豊かさを学び合い教え合う大切さを意味します。
 “研修”は、協同組合の特性を踏まえてさらに業務上の専門知識、技能を学び合い教え合う大切さを意味します。このように一人ひとりの組合員、役職員が教育、研修を通じて協同組合への誇りと潜在的能力を高めることにより、協同組合の発展に効果的に貢献できる点を鮮明にしています。
 この原則は組合員、役職員という協同組合の内部のみでなく、さらに地域社会に開かれ「一般の人びと、特に若い人びとやオピニオンリーダー(政治家、公務員、マスコミ、教育者など)に、協同することの本質と利点を知らせる」という“広報”の役割を軽視してはならない点も強調しています。「人びとは理解できないことを評価したり支持したりしない」のです。
 単位JAは、本所店・支所店等における小さな協同活動を重視した「教育、研修および広報」の戦略的意義付けを明確にして、継続的に教育基金を積立てて組合員・役職員が協同組合の価値・原則を実践に生かせる能力を高める学習講座(准組合員を包含した教育・研修講座)、子どもたちやその親世代が参加する地域社会に開かれた食農教育活動(生活文化活動)等を実施し、共感の和と輪が広がる「学習するJA組織」としての体質強化を図る必要があります。
 連合組織には、自ら「学習する連合組織」として体質強化を図るとともに、各単位JA、組合員、地域社会のために高度な補完機能(特にJA役員・幹部職員教育・研修と内外向けに斬新で共感される広報活動)を展開することが求められています。

第8回 第6原則「協同組合間の協同」について

 第6原則では、第1にその目的が「組合員にもっとも効果的にサービスを提供」するための組合員目線と「協同組合運動を強化」するための運動目線の2つの結合である点を協同組合の特性として明確にしています。
 第2に、その実践方法は「地域的(ローカル)、全国的、(国を越えた)広域的(リージョナル)、国際的な組織を通じて協同する」と明示され、農協・生協・漁協・森林組合・ワーカーズコープなどの同種・異種を含む単協間、単協と連合組織間、国を越えた協同組合間、ICAを含む国際組織間など国内外の重層的で、連鎖した事業活動である点を明確にしています。

【第6原則】「協同組合間の協同」
協同組合は、地域的(ローカル)、全国的、(国を越えた)広域的(リージョナル)、国際的な組織を通じて協同することにより、組合員にもっとも効果的にサービスを提供し、協同組合運動を強化する。

 G・フォーケ博士(元ICA中央委員)は『協同組合セクター論』(1935年公刊、翻訳書は日本経済評論社、1991年発行)で、“協同組合間協同関係がつくられると、…その連鎖を通じて流通する物資は、もはや単なる経済的価値、非人格的物財を表現するものではない。都市と農村との双方において協同組合人は、彼らを結合する絆の存在を意識するようになる。”とし、協同組合が“人間と人間の自由と福祉のための経済”を指向するのに対して、資本主義企業は“利益と支配を求める経済”を指向していると、両者の本質的差異をなんと80年も前から強調しているのです。
 協同組合原則と現場の実態を軽視した農協法の改正案が8月28日に国会で可決・成立したことに、協同組合陣営全体で強い危機感をもち、「協同組合間の協同」の原則をふまえた個性豊かなオンリーワンの基本構想・中期計画の枠組みづくりに、県下の各単位JA・各連合組織は、一体となって早急に着手する必要があります。
 さらに、神奈川県は従前から協同組合の提携が進んでいますので、これまでの取り組みをもとに、県内のJA・漁協・森林組合・生協・ワーカーズコープ等が戦略的に連携・主導して、組合員・地域住民・自治体等と共に県内の自然環境を大切に地域循環指向の農林水産物の生産・販売、再生可能なエネルギーの普及、地域社会福祉システムづくりに挑戦するビジョンづくりと実践方策の優先順位を明確にすることを協同組合に関わる者として切望します。

第9回 第7原則「地域社会(コミュニティ)への関与」について

 協同組合は本来、組合員のニーズと願い(メリット)を実現するために存在している組織です。その組合員は特定の地理的空間における地域社会(コミュニティ)と密接に結びついています。このため、協同組合は地域社会(コミュニティ)の経済的、社会的、環境的、文化的な発展が確実に持続するように特別の責任を持っています。協同組合が地域社会(コミュニティ)にどのくらい深くどのような形で貢献すべきかを決定するのは組合員です。
 協同組合が事業を通じて組合員のための自己目的のみでなく、組合員が生活し、就業している基盤(自然環境を含むインフラ)である地域社会(コミュニティ)の公益的目的を重ね合わせて実現する使命を保持しているのは“人びとの結合体”という本来的特性によるものです。一方で、投資家所有の営利企業が短期的利益を求めて、敏速に事業所を国内外に移動させるのは、地域社会(コミュニティ)との結びつきが密接ではない“資本の結合体“という本来的特性によるものです。

【第7原則】「地域コミュニティへの関与」
協同組合は、組合員が承認する政策にしたがって、地域社会(コミュニティ)の持続可能な発展のために活動する。

 国際協同組合同盟(ICA)は、協同組合をさらに発展させるため2020年を視野に世界的な目標や戦略をまとめた「協同組合の2020年に向けたブループリント」のなかで、「投資家が所有するビジネスモデルは現在、経済的、社会的、環境的な持続可能性の危機に見舞われている。…これらの危機は全て、人類のニーズよりも経済的利益を優先した事業モデルに起因している。これは、利益を私有化し、損失を社会化しようとするモデルである」と指摘しています。
 これに対して「協同組合は人類のニーズを中心に据えることで、今日の持続可能性の危機に対応し、他と異なる『共有価値』を提供する」と指摘し、「協同組合を持続可能性の構築者と位置づける」ことの重要性を強調しています。
 以上のような地球的規模での協同組合の存在意義を明確にして、具体的実践面では「JA綱領 ―わたしたちJAのめざすもの― 」の2項目に「1 環境・文化・福祉への貢献を通じて、安心して暮らせる豊かな地域社会を築こう」と明示している点に注目する必要があります。
 神奈川県のJAが、【第7原則】を指針として個性豊かで地域の人びととの共感の輪を広げながら、組合員のニーズ・願いの実現目的と地域環境保全など公益目的をコインの表裏のように結びつけて総合JAならではの事業活動の創造に取り組むことを期待しています。

第10回 エピローグ・JA運動の中心軸に

 「21世紀の協同組合原則」の本質に関わる“定義・価値”については、第1回、第2回で説明し、さらにその具体的指針である“7つの原則”については3~9回で説明しました。

今回は、エピローグ(むすび)としてJAグループの組合員(私自身もJAセレサ川崎の准組合員)、役職員が、協同組合原則を日々の事業活動に活かしていく心構えについて見解を述べさせていただきます。
 第1に、JAを取り巻く外部環境の激変を見据え、未来志向でJAの組織・事業・経営などを主体的に改善・改革する上で、その“中心軸”に「21世紀の協同組合原則」を明確に据えて取り組んで欲しいということです。中心軸ということは、各JAや連合組織で協同組合人として実践するなかで直面する解決すべき課題に対して、一歩立ち止まって「原則」と照らし合わせ、協同組合らしく効果的・効率的に機能を発揮できるかどうかを判断する中心的な基準と考えてもよいと思います。
 第2に、このICA(国際協同組合同盟)の協同組合原則は、経済の中で活気をもって拡大している協同組合の行う事業の意義を論証する基本指針として、国際機関や世界各国で活用されているということです。現行原則は従来の原則を見直し、1995年に決定されましたが、注目すべきは、2001年の国連総会で「協同組合における社会開発」という決議によって「協同組合の本質」を明示するものとして認められ、さらに2002年に国際労働機関(ILO)の第193号勧告「協同組合の振興」の基本理念・原則として認められ、100か国以上で協同組合法の見直しや改定に幅広く用いられている点です。日本でも「JA綱領」の骨格を成すものとして「JA綱領の前文」に明示されていることにも留意してほしいと思います。
 第3に、現行原則は世界的な情勢変化のなかで、なお有効であるということです。2012年のICA総会では、経済のグローバル化の加速、世界的金融危機に直面し、国際的な協同組合運動の持続的発展のための議論が行われ、その結果、現行原則は堅持しつつ、7つの原則についてより深く理解するための「ガイダンスノート(手引き)」の作成を決定しました。2015年11月にアンタルヤ(トルコ)で開催されたICA総会の主要議事として「協同組合原則ガイダンスノート」が発表されましたが、このガイダンスノートの“中心軸”は、「21世紀の協同組合原則」として世界の10億人の協同組合人に共有されている点を強調して、10回にわたる本稿の結びとします。

第11回
特別編 その1「改革構想に循環型農業と生活福祉文化を」

 筆者は第1回から第10回まで協同組合の価値・原則に関する「一からわかる”協同組合”」を明らかにしました。今回と次回は、このシリーズを踏まえ、協同組合の本質を理解しない改正農協法公布、弱肉強食の競争を加速するTPP大筋合意などの環境激変やJA組織・事業基盤の主体的条件の変容を踏まえて、未来志向で協同組合人としての誇り高いJA改革構想や中期計画を策定し、協同組合らしいJAの求心力、を高めるための3つのグランドデザインを提案したいと思います。
 昨年11月に決定された第68回神奈川県農業協同組合大会議案は、“「食と農を基軸として地域に根ざした協同組合」を確立する改革の実践~持続可能な農業・地域・組織づくり~”を主題としていますが、特に協同組合理念に基づく組織活動・総合事業の展開が鮮明にされている点が注目されます。
 第1に、2015年は国連の国際土壌年で「元気な暮らしは元気な土から!(Healthy Soils for a Healthy Life)」が世界的に取り組まれた点に注目する必要があります。すなわち、県民の元気で健康な暮らしづくりと生き物と共生する「神奈川JAグループの循環型農業の創造活動(JAの営農指導事業、営農資材購買事業と加工販売事業の循環型方式への転換)」のグランドデザインの明確化が求められます。これによって、県民の共感が高まり、県下の直売所販売や、学校給食、観光農業、体験型農業などへの地場産農畜産物の需要増大が予想されます。
 第2に、県民の高齢化や世代交代における暮らし方の見直しや都市農業とのふれあいニーズや地元食文化への関心が高まりつつあり、「神奈川JAグループの生活福祉文化の創造活動」のグランドデザインの明確化が求められます。「食と農を基軸として地域に根ざした協同組合」として躍動するためには、農・食・健康・福祉・医療を有機的に結びつけるJAの教育講座、女性大学、若い子育て世代や学生なども対象とした料理教室、青年部・女性部・子どもたち・親子が参加する食農教育活動、女性グループの加工・直売等の起業活動、健康管理活動、助け合い組織のディサービス活動など共感しあう多彩なJA生活文化活動で、事業と活動を結びつけた斬新な取り組みが決め手となります。
 第3に、協同組合としてのJAの社会的経済的な存在意義は、県民の支持、共感の広がりがバロメーターであり、そのことを神奈川JAグループの組合員、役職員のリーダーが自覚し、組合員の組織力(結集力)・JAの事業創造を推進するガバナンス力・経営革新力の3方面を結びつけた改革が求められています。その結果として、かながわ農業の担い手が育ち、農業者の農業所得向上と県民の豊かなくらしが相乗的に期待されます。このようなJAらしいグランドデザインの策定に本格的に取り組んでほしいと思います。

特別編 その2 「協同組合人としての連帯運動・事業革新を」

「21世紀の協同組合原則」制定20周年記念のシリーズの特別編の結びとして強調したい点を述べたいと思います。
 第1に、協同組合人としての連帯運動の重要性です。「21世紀の協同組合原則」は1995年のICA(国際協同組合同盟)の総会(筆者もオブザーバーとして参加)で制定されました。そのICA総会決議では、ICAの会員組織と各国あるいは国際的な関係政府機関に以下の2つのメッセージを表明しています。
 一つ目は、「協同組合は、このアイデンティティ声明(21世紀の協同組合原則)をその定款あるいは規則に盛り込み、それを日常業務のなかで実行し、可能な場合にはそれを協同組合法の基本とするように政府に働きかけるべき」旨、二つ目は、「政府は、協同組合が、組合員が管理する独立した組織として、他の企業形態と同等の条件で活動することを可能とする法的枠組みのなかで、経済における協同組合セクターの存在を理解し受け入れるべき」と、それぞれのとるべき態度を明示しています。
 JAグループはこのメッセージに込められた意味をよく理解し、国内外の協同組合と連携して、協同組合が、組合員が管理する独立した組織であり、わが国経済に協同組合の存在が確固として位置付けられるような法整備を政府に働きかける運動を強化すべきです。
 神奈川県内の協同組合の組合員は、JA33万人、生協182万人、漁協4千人、森林組合連合会8千人、全労済97万人、労働者協同組合5千人を数えます。これら本県協同組合陣営の組合員・役職員が結集し、わが国協同組合運動の未来志向として、協同組合セクターの存在を“カタチ”にするため、協同組合法制の基本となる「協同組合憲章」の制定を自治体・政府に働きかける運動を全国に先がけて取り組むことが期待されます。(2012国際協同組合年全国実行委員会(筆者も委員として参画)は、『協同組合憲章[草案]がめざすもの』を取りまとめ、2012年に家の光協会から発行していますので一読願います。)
 第2に、協同組合人として事業革新に臨むことの重要性です。JAグループをはじめ各協同組合の組合員・役職員がともに“協同組合人”としてのプライドを高め、主体的に事業活動の革新に取り組み、その成果を実感できるPDCAサイクルを確立されることを期待しております。
 これらの取組みによって、ICAと国連が毎年7月第1土曜日の国際(国連)協同組合デーに込めた協同組合人(Co-operators)の世界的な連帯“一人は万人のため、万人は一人のため(Each for all, and all for each)”の意義が、より深く理解されることを祈念しています。

*ご案内* このテキストは、白石正彦東京農業大学名誉教授が2015年度JAグループかながわに対して寄稿した文をまとめたものです。なお、表記や時制など、原文の趣旨を損なわない範囲で一部修正してあります。また、写真はJAさがみ広報課で挿入したもので、すべてイメージ写真です。

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